本を旅する
少しずつ旅ができる日常が戻ってきた。
旅と読書は似ている。
読書は、異国の地や過去や未来にも連れて行ってくれる。
読み終えて内容は忘れてしまっていたが、再度手に取るきっかけがあると以前より夢中になってしまい何度も繰り返し読む本は、土地に惹かれ再訪を繰り返す旅と似ている。
「たおやぎ」を運営するNaokoとHirokoで、旅と読書について語り合った。
H:Hiroko / N:Naoko


私たちが、旅に持っていきたい本
‐Hirokoのおすすめ2冊
H 旅の長さによって持っていく本を変えますね。
1〜2泊なら読みかけの本を持っていくか、薄めの文庫本。最初に浮かんだのが、これです。
1冊目:サガン『悲しみよ、こんにちは。』
H バカンスに行くストーリーなんだけど、別荘から海を眺めながら朝食を食べたり、非日常感が旅とリンクするなって思って。
18歳の主人公がプレイボーイの父と、父のガールフレンド2人と4人で南フランスの海辺の別荘で過ごす話なんです。
180ページ弱なので、移動中に読み終えるボリュームっていうのも大事ですね。
N サガンは、旅の合間でも読みやすそうですね。
2冊目:谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』
H ロングステイには、小説ではなくて詩を持っていきたいです。
詩は、小説よりも読み返した時の自分の心情で解釈が変わりやすいと思うんですよね。
これを書いた時の著者はこう思ったのかな?やっぱりこうかな?って考えるのが面白い。
ストーリーに惹き込まれる時間というより、読んで考える余白の時間を楽しみたいなって。
日常で忙しくしていると、余白の時間がとりにくくなっちゃうので。
H この詩集は、谷川俊太郎が夜中に書き殴ったものを後にまとめられたものらしいのですが、夜中に書き殴った勢いや熱っぽさを感じます。
N 電車の旅か、飛行機の旅かでも持っていきたい本が変わりそうですよね。
H サガンが電車の旅、飛行機の旅が谷川俊太郎のイメージでした!
電子書籍を読むことも増えたけど、1冊は文庫本を持っていきたいな。
‐Naokoのおすすめ2冊
N 1人で旅行に出かけることも多いので、往復で読み切れるボリュームの文庫本を持っていきたいなと思って選びました。いつも大体2冊持っていくんです。面白くて宿でも読んじゃって、帰りの本がなくなってしまうのは寂しいので。
1冊目:早瀬耕『未必のマクベス』
N IT企業に勤める主人公は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。バンコクで商談を成功させて休暇に入るが、娼婦から予言めいた言葉を言われる。シェイクスピアのマクベスの世界観とリンクしている、恋愛小説の要素も多い企業犯罪の小説で、没入感がすごい。
H だから、タイトルがマクベスなんですね!
N 3人の娼婦(魔女)も出てくるので、マクベスを知っている人は特に楽しめると思う。
旅に持っていく本は、どっぷりと浸れる本がいいんですよね。
より旅の体験を深めたいから、世界観に浸れる本を持って行きたい。
東南アジアの夜の熱量・湿度みたいなものが伝わってくるし、小説に出てくるお酒や食べ物も美味しそうなんです。
2冊目:ソフィア・サマター『図書館島』
N すごく評価が分かれる小説で、海外では世界幻想文学大賞4冠なんだけど日本では、あまり知られていないのと本のタイトル負けしてしまい、評価をされていなくて。
文体から色彩や香り、映像が伝わってくるような美しい世界観が素晴らしい小説です。
ファンタジーノベルなので最後に用語集がついていて、小説の世界だけで使われている用語がたくさん出てきます。
H 十二国記みたいですね。
N そうそう!トールキンの『指輪物語』のようなファンタジーノベルに耐性がある人はすごく楽しめると思う。
この著者って詩人なんです。表現も美しいのも読みどころで、香りを感じるようなリッチな文体
H 図書館島ってタイトルだけど、図書館がメイン?
N と思うけど、そうではないんです。私もそう期待して買ったんだけど。
少しだけ図書館も出てきますよ。
主人公が旅というか、初めて祖国から離れて商談で海外へ行こうとする小説なので。
アジアにいくなら『未必のマクベス』、ヨーロッパに行くなら『図書館島』を持っていきたいですね。

南国と寒い国に持っていきたい本
‐Hirokoの持っていきたい本
南国:エンリケ・バリオス『アミ、小さな宇宙人』
H 距離や向かう先によって、持っていきたい本は変わりますよね。
南国にいく時は、心がじんわり暖かくなるような話を読みたいなって思います。
笑顔や愛で溢れててほしいって思ってしまう節があるかも。
南国を求める時って、癒されたい、開放されたいって思いが強いと思うんですよね。
厳しさは少なくてよくて、すべてにおいて温かさを感じられるものだったら良いな。
寒い国:J・Mクッツェー『恥辱』
H 寒い国にいく時は、人間の冷酷さとか弱さに触れるような話を読みたい。
あぁ、やっぱりヒトってこういう粘着質なところあるよね〜っていうやつ。
N その違い、わかる気がする!
H 『恥辱』は、二度の離婚をした52歳の大学教授は昔はそれなりにモテた人なんだけど、今は娼婦の身近な女性で性欲を満たしていたのだけど、魔が刺して教え子の女学生に手を出してしまう。
告発されて退任に追い込まれ娘のいる田舎の農園に転がりこむのだけど、性根が腐っているので、そこでも制裁が...という小説。
N なんか、読んでいるとイライラしてきそうだね。笑
H イライラします。笑
ただ、人間の変わりたいけど変われない部分をうまく描いているんです。
ブッカー賞(イギリスの文学賞)も受賞してます。
‐Naokoの持っていきたい本
南国:吉本ばなな『アムリタ』
N 『アムリタ』は物語後半でサイパンが出てきます。南国といえば、最初に思いついた小説。
アムリタは子供の頃読んだ印象だと、なんだかボヤっとしていて何が言いたいのか判らなかったけど、今この年で読むとかなりスピリチュアル要素が強い小説で、本質を描いている感じが好きですね。
寒い国: ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
N 寒い国に行く時は、難しい本を読みたくなります。
『薔薇の名前』はイタリアの修道院で起きる連続殺人事件の話で、中世のキリスト教の精神がよく表わされている小説。
ショーン・コネリー出演の映画になってるので、映画をみてから本を読んでもいいかも。
私は日本人だからキリスト教の真髄みたいなものは分からないのですが、映画も評価が高くて、80年代を代表するゴシックホラー映画で、カルト的な人気があります。
H 読んでみたい!冬のヨーロッパ旅行のイメージかな。冷たい風に吹かれて石畳の上を歩くような。
N そうだね、イタリア旅行に飛行機の中で読むには最適だね。
H 読みたい本がたくさんある時の幸福感と、旅のワクワク感が重なると最強ですね。
N 読書と旅は似ていると言われるけど、家にいながら過去にも未来にも海外にも連れて行ってくれる読書をしながらの旅は、幸福感も贅沢感も何倍にもなりますね。
今回の対談で紹介した本
Hiroko
1冊目:新潮文庫『悲しみよ、こんにちは。』サガン
2冊目:谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』谷川俊太郎
南国:徳間書店『アミ、小さな宇宙人』エンリケ・バリオス
寒い国:早川書房『恥辱』J・Mクッツェー
Naoko
1冊目:早川書房『未必のマクベス』早瀬耕
2冊目:東京創元社『図書館島』ソフィア・サマター
南国:新潮文庫『アムリタ』吉本ばなな
寒い国:東京創元社『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ