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​浮雲のように放浪する

花のいのちはみじかくて

苦しきことのみ多かれど

風も吹くなり 雲も光るなり。

『放浪記』や『浮雲』など数々の名作を残した女流作家の林芙美子の言葉だ。

山口県に生まれた後、複雑な生い立ちのためさまざまな土地を転々とし、多感な10代の時期を広島県尾道で過ごした。そのため彼女の小説や自伝には頻繁に尾道が登場する。

 

女優の森光子が生涯をかけて磨き続けた舞台『放浪記』や、昭和映画を代表する名作と言われた

高峰秀子主演の『浮雲』。

後世に名を残す数々の小説を残した彼女の人生はまさに波瀾万丈だった。

「たおやぎ」を運営するNaokoとHirokoで尾道を訪れ、林芙美子の軌跡を辿った。

H:Hiroko / N:Naoko

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雲のように流れてたどり着いた場所は

N: 『浮雲』という言葉は、林芙美子自身を表しているように思うんですよね。

複雑な環境で育っているため幼少期は各地転々としているのかな。

雲のように流れて尾道にたどり着いた。

 

H: 林芙美子を語るときは「旅」もキーワードになりますよね。一箇所にい続けるのが難しいというか。

 

N: 自分がフィットする場所を探していたんじゃないか、って見方もできるよね。

 

H: 林芙美子って、他の女流作家にはない強さや明るさを感じませんか?

 

N: あ、それすごくわかります!

今とは比べものにならないほど女性は家庭で男性を支えるのが当たり前とされてた時代だけど、小説を書いて自分でお金を稼いだり、生き方の信念を感じる。

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悔しいが原動力だった?

N: 林芙美子の小説は「悔しい」っていう感情が頻繁に出てくるよね。

 

H: 出てきますね。「悲しい」「辛い」ではなく、悔しい。

 

N: そうそう!他の女流作家さんは、悲しい、辛い、涙、って切り口が多いように思うけど、林芙美子は悔しさの方が先にあって、それが原動力に繋がっている感じ。

 

H: ハングリー精神がありますよね。放浪記の中では男性に頼りたい、甘えたいって言ってるシーンもあるのだけど、本心じゃないというか。笑

きっと、わたしの人生こんなもんじゃないって思っていただろうし、自身の生き方の美学に反することをする位ならひもじい思いをした方がマシって思っていた気がします。

N: ネチネチしてないんですよね、林芙美子って。暗い中に明るさが見える。

 

H: この明るさが戦後の混乱期に受け入れられたのかもしれないですね。貧乏を恥じず、夢や明るさと笑顔を忘れない。

 

N: ヒット作を生む一方で、当時はかなり批判もされていたようですね。

 

H: 貧乏をネタにする小説家とか成り上がりとか、散々な言われようだったようですが、

彼女自身はカラッとしてたみたいですね。

尾道にある「林芙美子記念館」では、林芙美子がラジオ出演した時の肉声を聞くことができますが、そんなの気にしなきゃいいって話してて。強いなって思いました。

 

N: まさに尾道の風土そのものって感じだよね、林芙美子は。

穏やかな海と日照時間の長いカラッとした気候で育ったのが、ヘビーなテーマの作品でも明るさを失わない独自の作風に繋がっているのかな。

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時代は彼女の明るさを求めていた

N: 『放浪記』も『浮雲』も、時代背景的には昭和だけど、古さを感じないよね

 

H: 人の感情の動きや、その事象に対してどう反応するかのポイントは今も昔も変わらないですよね。

 

N: 本質をついているからこそ時代を超えて感動することができるんですよね。

 

H: 尾道は観光地としても人気がありますが、店主のこだわりがぎゅっと凝縮された小規模のお店も

多かったですよね。


 

N: 小さな自分の城を築いている若い人がとても多かったね。そしてみんな人懐っこくて明るい。

商売してたら大変なこともあるしここ数年はとくに辛い時期もあっただろうけど、大変さを明るく笑いに変えてる方達が多かったね。

H: 林芙美子は、夢や明るさを失わない作風だからこそ大ヒットしたと思うんですよね。

N:  『浮雲』も、私が主人公の立場だったら多分鬱状態になってしまうと思うんだよね。

でも希望は失っていない。それが、林芙美子なんだよね。

今回の対談で紹介した本

平凡な女の壮絶な孤独

https://www.taoyagi.com/post/hayashifumiko_ukigumo

新潮文庫『浮雲』林 芙美子
 

涙は人生を洗う

https://www.taoyagi.com/post/fumiko_hourouki

新潮社『放浪記』林芙美子

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