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監視の先は統制かディストピアか

  • 執筆者の写真: Hiroko
    Hiroko
  • 2022年2月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:2022年2月11日

執筆者:Hiroko


20世紀イギリス文学の最高傑作、ディストピア小説の金字塔と言われ、名作ランキングで常にトップに君臨する小説がある。

1949年に出版された、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』だ。


その後のディストピア文学にはもちろんのこと、政治的思想など多岐にわたり影響を与えた。

じつは『一九八四年』で描かれた世界とコロナ禍の現代はかなりリンクしている箇所が多いと感じているので、この小説を選んだ。




『一九八四年』のあらすじ


核戦争後の1984年のロンドンが舞台。ビッグ・ブラザー率いる党の一党独裁の社会を描いている。(ビッグ・ブラザーとは党が擬人化されたもの)

街中には無数の監視カメラがあり、家の中にいてもテレスクリーンで常に言動を監視されている。怪しい言動をするものがいないか思想警察が巡回し家の窓からも頻繁に見張られている。

知人や家族からの密告もあるので気が抜けず、「物思いにふける行為」は怪しい思想をしているとされ表情罪で囚われる。

メディアを通しての洗脳、ニュースピークという新しい言語への変更、異なる2つの事実を信じる二重思考など、思想統制が徹底されている。


ビッグ・ブラザーが掲げているスローガンは以下の通りだ。


  • 戦争は平和なり

  • 自由は隷従なり

  • 無知は力なり


主人公は真理省の記録局に勤務するウィンストン・スミス。「過去の歴史の改ざん」をする業務についているが、昔のある新聞記事をきっかけに当局へ不信感を持つようになる。

そしてテレスクリーンに隠れて、日記をつけるという重い犯罪行為をはじめるが...



二重思考とトランプ政権


『一九八四年』では、二重思考(Doublethink)という概念の世界が描かれている。

二重思考こそがビッグ・ブラザーの核であり、今もなおこの小説が社会に影響を与え続けている理由の1つだと思うのだが、簡単に説明するとこういうことだ。


自分の対立している考えを両方信じ込み、それによって生じる矛盾は一切忘れる状態のこと。

2+2=4は世界の共通認識だが、ビッグ・ブラザーが2+2=5といえば、5になるし、本当は4

のはずなのに、なぜ5なんだろう??という疑問や矛盾は追求しない。

当局のエリート達(つまりビッグ・ブラザー)が、市民に要求している思想だ。


この小説は70年以上読まれているベストセラーだが、2017年1月に突如アメリカのAmazonランキングで1位になった。

当時アメリカのトランプ大統領就任式の聴衆数が誇張されて発表されたことが報道されたが、コンウェー大統領顧問が出演したテレビ番組でこのことをオルタナティブ・ファクト(もうひとつの事実)と表現した。

オルタナティブ・ファクトこそ、『一九八四年』の中で語られている二重思考そのものだとして、一気にトレンド入りしたというわけだ。



監視されることが当たり前になった


テレスクリーンで国が市民を監視する社会を”会社”に置き換えてみると、現代社会が『一九八四年』の世界に近ずいてきていないだろうか?


コロナでリモートワークが当たり前になり、以前とは管理や監視への考え方が変わった。

部下が仕事をしているかの管理だけではなく、会社のスマホやPCを使っていれば検索履歴等から精神状態や内面事情までバレバレになってしまうことは十分考えられる。


監視されていると感じながら働くのは気持ち良いはずがない。

監視がきつくなればなるほど、監視される側の精神はすり減りストレスフルになる。

監視する側も辛い。言葉や発信にミスが許されなくなり、時間や場所に関係なく、些細な行動にも気をつけなければいけない。


監視なしにうまくいく社会というものは存在するのだろうか?

『一九八四年』の中で厳しい監視から逃れる唯一の方法は「プロール階級であること」と描かれている。つまり目立つ行動はせず、言われたことだけを淡々とやる人のことだ。


普通が一番という考えは間違いではないし、言われたことだけをやるのはたしかにラクだ。

だが目立つと面倒だから、批判されたくないから言われたことだけやればいい、というプロール階級ばかりになってしまえば、たちまち衰退し面白みのない世界になる。


プロールとして感情を失くして生きるか、気が休まらないエリートとして生きるか。

『一九八四年』の世界に近づいてきたこれからの社会をどう生きていけばいいのだろう。





参考文献:

早川書房『一九八四年』ジョージ・オーウェル


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