母性は洗脳、恋愛は宗教
- Hiroko
- 2022年11月3日
- 読了時間: 3分
執筆者:Hiroko
セックスや自然妊娠を望むのは旧世界的価値のマイノリティで、人工子宮をつければ男性も出産をすることができる。
政府は少子化対策のため10人産んだら1人殺せる”殺人出産制度”を採用し、出産を望む多くの男女の動機は愛ではなく殺意になっていた。
「産み人」として10人目を出産したら殺したい人を「死に人」として1人指名できる。
ただし、10人産み終える前に「産み人」を断念したり死亡した場合は、「死に人」を指定する権利は得られない。
「産み人」になるには相当の覚悟が必要だ。約10年は入院を余儀なくされひたすら出産を繰り返すことになる。
殺したいくらい憎む人はいても「産み人」になるまでの殺意ではない、という者が大半だ。
高齢で「産み人」になった場合は10人を産み終えることなく死亡してしまうケースも多い。
男性も人工子宮をつけて「産み人」になれるが、人工子宮の体への負担はかなり大きいらしい。
「死に人」の死は名誉なことで、みんなのために犠牲になってくれた素晴らしい人だ。いつ死ぬかわからないからこそ、充実した人生を送ろうと思える。
これは村田沙耶香の小説『殺人出産』のあらすじ。
母性やジェンダーを批判的に描く奇才小説家の衝撃作から、現代の母性やジェンダーの考察をしてみたい。

母性のディストピア
女の子は可愛らしく、男の子はたくましく生きて結婚し子どもを産むことが幸せだ。いまもこの価値観がスタンダードだが、ある種の洗脳という見方をしたり、異を唱える人が増えている。
日本社会もゆっくりと結婚や出産や育児の考え方が変わってきているが、未だ家庭を守るのは女性で男性が外で稼ぐ、という構図を推奨する制度は根強い。
女性が自身のキャリアを選択することが増えたのが晩婚や少子化に繋がっていることは確かだが、これは結婚・出産後の未来がどうしても女性への負担が増すような構造だからだろう。
ただ男性に負担がないかというとそういう訳でもなく、男性は仕事をしながら家事育児をし、女性は家事育児をしながら働かないと一人前ではないと見なされる気がしている人も少なくないかもしれない。つまり、双方にかなりのプレッシャーがかかっている。
『殺人出産』では、主人公の育子の姉の環が「産み人」になる道を選んだ。
途中何度か流産をしてしまうのだが、病院側は次も頑張りましょうね、とすぐに人工授精の段取りを開始する。死産や流産は10人にカウントされない。
セックスで愛を感じることも、出産した我が子への愛情もない。
出産にジェンダーは関係なく機械的に産んでいく世界は、今の価値観ではディストピアだが、もしかしたら100年後は当たり前になっているのだろうか。
出産の動悸が殺人になった世界は、男女の愛や母性も死語になっているのかもしれない。
参考文献:
講談社『殺人出産』村田沙耶香
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