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男女の不協和音

  • 執筆者の写真: Hiroko
    Hiroko
  • 2022年8月11日
  • 読了時間: 3分

執筆者:Hiroko


エリカは40歳の独身で「オフィス・エリ」の社長だ。

急逝した親友の告別式で、親友の不倫相手だった湯浅と出会う。その夜、湯浅と2人で飲んだことをきっかけに、湯浅の術中にまんまとハマり、逢瀬を重ねていくが...


今回は男女の深い人間性をテーマに数々の小説を書いてきた、小池真理子の『エリカ』を読みながら、不倫について考えてみたい。




40歳独身女性の不倫


アラフォー独身女性が不倫にハマってしまうのは、小説でも現実世界でもよく聞く話だ。

今までの人生が仕事一色だったり、プライドが高かったり、他人に心を開くのが苦手だったりすると、ちょとっした心の隙をついて果敢に口説いてくる既婚男性に、自分でも驚くほどハマってしまうことがある。


刺激を楽しんでいるうちはよいが、楽しさから泥沼へ、空虚や孤独を重ねがら不毛な恋愛を続けてしまううちに心は少しづつ壊れていく。


この小説の中でも、エリカは湯浅に情熱的な言葉を浴びせられるうちにストッパーが聞かなくなり始めていることに気づく。


「恋というのは、ひとたびおちて終えば、理性や意志の力などほとんど、ものの役に立たなくなる。

(中略)

倫理や道徳のかたまりのような人間ですら、恋はその強烈な魔力によって、その人を飴のように溶かしにかかる。頭の中に三次元四次元の空間が広がって、別の風景、別の宇宙が見えてくる。」*1


きっかけは相手から、と自分に言い聞かすことで精神のバランスをとっていた。


「熱心に口説いてきたのは彼のほうなのだ、という意識はエリカの中に根強くあった。長い間、逃げ腰になりながら接してきたのだから、相手の熱意に気圧され気味になっている、という状態を簡単に崩したくはなかった。口説かれ続け、ほだされて堕落した途端、人が変わったように嬉々として能動的な行動を取り始めるのは、いかにもあさましいことのような気がした。」*2


人間はストレスの強い状況に身を置き続けると、違う刺激を求めてストレスを相殺しようとするらしい。

それが甘くて美味しいものであるなら、どうしたってそちらに流されてしまうのが人間だ。



不倫に対する世の中の風当たり


最近の道ならぬ恋への社会の風当たりはとても強い。

有名人の不倫は断じて許さぬという風潮で、不貞な恋愛は社会活動の致命的ダメージになる。「不倫は芸のこやし」と言われていた時代は何世紀も前のようだ。


念のため書いておくが、私個人の考えとしては不倫を肯定も否定もしていない。


周囲が祝福する恋愛だけでないことくらいわかってはいるが、自身がその恋愛へ足を踏み入れてしまうのは辛いものだ。

似た境遇のSNSアカウントやブログを追いかけては「ああよかった、自分だけじゃない」と安心しないと眠りにつけない。

自分が求めているシアワセってどんなカタチだ?と問いかけ続ける。


「それは恋の始まりが男と女の間にもたらす、ばかばかしいほどの不協和音ではなかった。どうしてもあと一歩、相手の中に踏み込めずにいる時の、漠然とした距離感を伴う不協和音だった。」*3


女性の自分が読むと、なんでこんなずるい男にハマっていくの?とエリカに怒りたくなり、ゲーム感覚で甘い言葉を吐き続ける湯浅には心底イライラする場面も多い。


だが人生の楽しみ方は人によって違うし、恋愛はゲームだと考えるのなら、やはりこういうかたちはあるのだろう。

恋愛はハマったほうが負けと言われるが、ハマった方が何倍も楽しめる。


多少ネタバレになってしまうが、最後にエリカはちゃんと自分の道を歩き出す。

湯浅のような男性との親密な関係も、自分が選んだ選択肢なのだ。


もし自分がエリカの立場にいたら、不毛な場所にいる自分をどう受けいれるだろう?





引用元:*1*2*3 中公文庫『エリカ』小池真理子


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