幸せになることより、満足すること
- Hiroko
- 2022年1月27日
- 読了時間: 3分
執筆者:Hiroko
誰もが簡単にやっていることのようで、実は難しいことはたくさんある。
毎朝起きて仕事に行き、最低限の人間らしい生活を送れるよう炊事洗濯をすることもだし、無限にある選択肢のなかから、いまの自分にちょうどよい息抜きを探して精神を保つこともだ。
一度転ぶと、立ち上がる自分を想像できないときがある。
やっとの想いで立ち上がってもまた頻繁に足がもつれるようになり、今まで出来ていたことができなくなる。
今日くらい全力疾走しなくてもいいじゃないかと励ましながら、もたついている自分の横をつり上がった目の輩たちがズンズン追い抜いていくことに恐ろしさを覚える。

そんなとき手にとってほしいのが、森沢明夫『エミリの小さな包丁』だ。
主人公エミリはある事件をキッカケに、15年ぶりに都会から田舎のおじいちゃんの家へ転がり込むところから始まる。ここで知り合った人たちとの交流や、おじいちゃんのおいしい魚料理で心が前向きになっていく様子を描いている。
『エミリの小さな包丁』には、心が洗われる2つの魅力がある。
1. おじいちゃんの言葉
無口な大三おじいちゃんのかける言葉がエミリを何度も立ち止まらせ救っていくのだが、これは著書からわたしたちへのメッセージでもある。
幸せとはなんだ?働くってなんだ?と、幾度も本を置き思いを巡らした。
朝の散歩で神社に立ち寄ったとき、エミリに神様っていると思う?と聞かれると、
「神様ってのは、自分自身のことだ」*1
と答える。
流れ星に幸せになれるようお願いしようとしたが間に合わず悔しがるエミリには、
「幸せになることより、満足することの方が大事だよ」*2
と語りかける。
田舎である噂が広がってしまい、町を出ていこうか迷うエミリに優しく、
「自分の存在価値と、自分の人生の価値は、他人に判断させちゃだめだよ。
(中略)
判断は必ず自分で下すことだ。他人の意見は参考程度にしておけばいい。」*3
私たちはすでに完璧で幸せである、というのがどの宗教にも共通した教えだが、幸せな状態は幻のようなものだと思っていないだろうか。
もちろん私も、幸せ=雲を掴むようなことと思っている節があった。
いま自分は幸せかわからないという人は、大三おじいちゃんの言葉を読んでみてほしい。
2. 胃袋が癒される
この小説には章ごとにメインの魚料理がでてくる。レシピ本ではないので細かい分量は書かれていないが、無性に魚料理が食べたくなる飯テロな小説でもある。
この小説を読んでいる間、我が家の食卓は今まで以上に魚料理が並んだ。
作らずにはいられない!ということで、
小説のメインデュッシュの位置付けにある、”サワラのマーマレード焼き”をつくってみた。
材料:
サワラ(淡白な白身魚ならなんでもOK)3切れ程度
マーマレードジャム 大さじ2〜3
<漬けタレ>
酒 1カップ
みりん おおさじ2
醤油 大さじ3
作り方:
漬けタレの酒、みりん、醤油を煮立たせ、冷ましてから輪切りの柚子とサワラの切り身を4時間以上漬け込む。
フライパンでタレをすこしづつ絡ませて焼き、残りの漬けタレにマーマレードジャムを混ぜてさらに絡めて焼いていく。
身が崩れないよう丁寧に焼いていく。
小説内に分量の記載はないのでオリジナルなのでお好みで調整を。エミリは魚焼き網で焼いてるがフライパンでもOK。

(モノクロでは美味しそうに見えないのが残念だ...)
マーマーレードのほろ苦さが、クセのない白味魚とマッチして、和食とも洋食とも合う不思議な逸品に。これぞ勝負できるご飯だ。
読んでいるとお腹が空くがちゃんと幸せな読後感を味わえる、癒しの小説だ。
引用元:
*1*2*3 角川文庫『エミリの小さな包丁』森沢明夫
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