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籠中の鳥の如く

  • 執筆者の写真: Naoko
    Naoko
  • 2022年9月29日
  • 読了時間: 5分

更新日:2022年9月30日

執筆者:Naoko


「後宮」を聞くとたくさんの美しい女たちが、たった1人の皇帝のために集められて、生き抜いていく場所で、愛憎や友情、政治的な陰謀などに巻き込まれていく場所、というイメージで、スケールや文化は違えども日本の大奥とほとんど近しい場所であろう。

後宮という閉鎖空間は、鳥籠とすると、そこにいる女たちは手入れされた美しい鳥たちと言えるかもしれない。


後宮を舞台としているところで有名な小説では、酒見賢一の『後宮小説』があげられるだろう。



『後宮小説』が発売されたのは、1989年と今から33年前となり、ご存知ない方もいらっしゃると思うので、軽く触れておきたい。


舞台は中国風の素乾国という国。(あくまでもファンタジーノベルなので、中国ではなく中国風)

物語は、素乾国の皇帝が腹上死するところから始まり、若い次期皇帝のために、新たに後宮の整備を進めるにあたり、国中の若い女たちが、宮女として集められている。

主人公の銀河という少女も宮女は「三食昼寝付き」*1 の言葉に躍らせれ、素乾国の田舎から都に連れてこられる。

後宮に入る前に一般教養や閨房のテクニックなどを仕込まれたのち、第一夫人なのか、第二夫人なのかという妃のランクが決定する。銀河と新皇帝、そして濃いキャラクターぞろいのライバルの宮女たちや宦官などが、新しい時代を迎えるにあたって、大きな陰謀の中に取り込まれていく、そんな物語である。



後宮小説というジャンル


酒見賢一の『後宮小説』が第1回日本ファンタジーノベル大賞に選ばれてから、ファンタジーノベルにおいて、籠の中のような閉鎖空間としての後宮という場所の特殊性、人間模様、男女の愛憎、政略などのテーマを1つにグルーピングされた小説は、”後宮小説”というジャンルは分類として定義され、確立されたと言える。


ライトノベルがどうしても多くなるが、酒見賢一以降に発表された”後宮小説”の代表的なものをいくつか挙げておく。


・篠原 悠希の『後宮』シリーズ

・小田 菜摘の『後宮の薬師』シリーズ

・小野はるかの『後宮の検屍女官』シリーズ

・白川紺子・香魚子の『後宮の烏』シリーズ


上に挙げた以外でも、後宮を舞台にしている小説は、枚挙にいとまがなく、「後宮」とタイトルつけると売り上げが伸びるのか、または比較的息の長いブームになっているのかもしれな。


本日は、今年10月からアニメーション化される白川紺子の『後宮の烏』シリーズについて取り上げたいと思う。


1巻の裏表紙は、以下の通り。


「後宮の奥深く、妃でありながら夜伽をすることのない、「烏妃」と呼ばれる特別な妃が住んでいる。その姿を見た者は、老婆であると言う者もいれば、少女だったと言う者もいた。彼女は不思議な術を使い、呪殺から失せ物さがしまで、何でも引き受けてくれるという――。時の皇帝・高峻は、ある依頼のために烏妃のもとを訪れる。この巡り合わせが、歴史を覆す「禁忌」になると知らずに。」*2


ライトノベルは普段読まないが、この裏表紙だけを読んで、ミステリアスなこの「烏妃」が何者であるか、また他の妃たちとは立場が異なり、呪術を扱う禍々しいとも言える存在で、とても興味を惹かれ、一気に読んでしまった。



『後宮の烏』の歩き方


数日後にアニメーション化され放映予定の『後宮の烏』シリーズであるが、押さえておくとより楽しめそうなポイントを挙げておきたい。


1.後宮という異世界感

 中国風ファンタジーであり、架空の国の後宮が舞台。世界観が作りこまれており、

後宮小説に人々が期待するであろう魅力的な登場人物が出てくる。

烏妃の身の回りの世話をするお節介で人間味のある侍女や癖のある宦官との対話が軽快で気持ち良い。


2.烏妃というミステリアスな妃

 主人公の烏妃は、感情を表に出さないミステリアスな妃。月に一度烏妃として肉体的精神的な苦しみを背負い、特殊能力で呪術や死者との対話を行う。秘密が多い烏妃だが、役割を全うする責務と人としての幸せを享受することへの罪悪感に揺らいでいる彼女を小説を読みながら諸手で応援したくなる。


3.皇帝と烏妃の歯がゆい友情にも似た愛

 烏妃は夜伽をしない。ゆえに他の妃と異なり、子を産むことはない。むしろ皇帝と烏妃はパワーバランス的に拮抗関係にあって、歩み寄ってはいけないルールがあるが、お互いに信頼を寄せ、友情とも愛情ともつかない微妙な関係性が歯がゆく、今後の二人の行く末が気になる。


4.スピリチュアリティ(死者の呼び出しや対話など)

 項番2と少し重複するが、烏妃は霊を呼び出したり、対話ができる能力を持つ。また死者を癒す力を持ち、スピリチュアルな物語としても読むことが出来る。


5.妃同士のバチバチ感なし

 一般的な後宮小説にありがちな女同士のバトルはなく、どちらかというと、協調的な関係性にあり、安心して読むことが出来る。一方、バチバチ感が好きな人からすると少し物足りなさを感じるかもしれないが。。。


6.魅力的なスイーツ

 物語で烏妃が興味がある唯一のものは、スイーツ。中国風スイーツがメインであるが、とても美味しそうで、ハスの実の砂糖漬けや団子や月餅が食べたくなってしまう。


小説は、現状7巻まで刊行されているが、アニメーションも上のポイントを押さえると、より楽しく観ることが出来ると思う。

私自身久しぶりに、この記事を書きながら『後宮の烏』シリーズを読み返して、一気読みした時の熱量が再び戻ってきた。





引用元:

 *1 新潮社 『後宮小説』 酒見 賢一

 *2 集英社オレンジ文庫『後宮の烏』1~7巻 白川 紺子


参考元:

 『後宮の烏』TVアニメ https://kokyu-anime.com/

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