弱き人間たちの品評会
- Hiroko
- 2021年12月16日
- 読了時間: 3分
執筆者:Hiroko
これは、共依存を様々な角度から書いた小説だ。
不倫相手とのセックスの回数を記録する女に徘徊老人、家のドアを開けっぱなしにする裸男に面倒見が良すぎる聖職者。

たまたまTwitterのタイムラインに流れてきて見つけたのがこの本。
吉村萬壱の『死者にこそふさわしいその場所』。
怪しげな装画に惹かれ、その場ですぐに購入した。
実は、現代の作家の作品はあまり読んでこなかった。
(読まず嫌いしていたと言ってもいいが)
谷崎潤一郎やマルキ・ド・サドなどフェチ文学の王道ばかり読んできたからか、現代作品はライトだと思い込んでいるところがあったと思う。
だが、読んでみると...面白いではないか!
電車を乗り過ごすほど夢中になり一気読みをした。
この小説は、弱く誰かに依存しないと生きていけない人々を描いた短編集で、最後の「死者にこそふさわしいその場所」で、短編に散りばめられた人々が廃墟の植物園に集結する。
ああ、こうやって仕上げたのか、と関心した。
依存には色んなカタチがある
冒頭に収録されている「苦悩プレイ」は、妻のいる富岡と不倫しているゆき子が主人公だ。
この富岡が非常に腹がたつ。だが読んでいるとゆき子にも腹がたってくる。
「妻と別れて結婚するという約束も、家を出て一緒に暮らすという約束も果たされないまま、フォトウェディングの代金しめて5万円成を自腹で払わされ、今こうして言われるままに裸になって横たわっているゆき子。」*1
不倫は共依存の典型的な例として挙げられる。この小説では富岡にちゃんと制裁が下されるシーンもあるが、最後の植物園での富岡の狂乱っぷりのほうが見ものだ。
朝どうしても起きられなくなってしまったミユが主人公の「絶起女と精神病苑エッキス」。
沐浴場は精神病患者を演じ合う会員制の倶楽部・精神病苑エッキスが舞台だ。
各々が狂気を演じ合う不思議な集まりに、ミユは偽患者として雇われる。
彼らの挙動を眺めていると、精神病患者を演じ合う会員制の倶楽部が実在するように感じられてしまう。
私てきに最も面白かったのは、困った人の面倒を見ることが生きがいの聖職者、兼本が主人公の「カカリュードの泥溜り」。
妻の春江と共にキラスタ教を説き、教会で布教活動をしているが、実際のところ妻はうんざりしていて、信者の皮膚科医と不倫をしてお小遣いをもらっている。
兼本は貧しい人に救いの手を、とキラスタ教で説いている教え通り、ホームレスや弱き者を見つけては家に置いて面倒をみようとする。
ホームレス達は世話になることが当たり前になり乱暴になっていくが、暴力をふるわれるたび神に感謝する、救いようのない聖職者だ。
なぜ依存するんだろう?
自分の価値を周囲の評価だと思うことが共依存だ。
共依存は相手(周囲)との関係性に過剰に依存している状態で自己満足に過ぎないのだが、
〝自分は依存している〟と気がつけないのが怖い。
共依存している人は、依存している相手より自分が大切だ。
自分の存在を認められたくてしょうがない。
恋人が変わっても毎回不倫の恋をしている女性や、貧乏で生活が苦しいのに寄付やボランティアに熱心すぎる人は、依存体質の傾向が強いと何かの本で読んだ。
世界は、この弱き者たちの集まりなのかもしれない。
あ....自分も...だろうか。
引用元:
*1 文藝春秋『死者にこそふさわしいその場所』吉村萬壱
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