top of page

ネガティブの種

  • 執筆者の写真: Naoko
    Naoko
  • 2022年6月2日
  • 読了時間: 4分

更新日:2022年6月13日

執筆者:Naoko


雨の日が一番好き、という人はあまりいないかもしれない。


6月になると雨も降る日が多いせいか、自然と体が重くなる。雨が降ると自律神経のうち、副交感神経が優位になるという。



副交感優位になると、身体のあらゆる活動が緩やかになり、休息モード切り替わる。その際リラックスしたり、眠くなったりと次の活動に備えて身体を回復させており、生存に関わる必要不可欠な機能と言える。


と。


頭ではわかっているが、雨の日は気分が塞ぎ、鬱々として自責の念に駆られたり、過去に恥ずかしかったことを思い出したり、ネガティブなことについ思いを巡らせては、ネガティブであるそんな自分を責めたりと、負のループが始まる。


暗澹たる暗いループの中でいつも感じるのは、私自身の中に”ネガティブの種”が確実に存在していて、不安、不信、恐れ、悲しみ、怒りといった葉が一斉に芽吹いてくる感覚だ。



悲惨だった子供時代のロールモデル


自分の中のネガティブの種を探すために繰り返し読む本は、ティム・バートンの『オイスター・ボーイの憂鬱な死』。

スタイリッシュな黒とピンクの装丁で片手に乗るような小さな可愛らしい本。

外箱もついていて、表紙の一部が覗けるようなお洒落なデザインで、私の宝物の一つである。


著者のティム・バートンは、映画監督として有名すぎるので説明しないが、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」っぽい線画タッチのイラストと、23人の悲惨な子供たちの姿がフルカラーのイラスト付きで描かれている。


子供たちは、牡蠣の頭を持ったオイスター・ボーイ、たくさん眼がある女の子、ミイラ少年といったミュータントたちであり、決してマジョリティにはなれず、社会的に隅に追いやられている存在だ。良かれと思ってやったことも報われず、悲哀と少しのブラックユーモアを織り交ぜて描かれている。


彼らが幸せを求めると、更に不幸な結果を招くか、最悪の場合、死んでしまうというオチが23人分繰り返し描かれている。


この本は、私が大学生ぐらいの時に購入し、20年以上に渡り、時折本棚から取り出しては眺めるのであるが、気分が下がっている時に読むことで、さらに精神の一番底に連れていかれる。

しかし、底まで落ちたら、後は登っていくしかないし、自分自身のコアを見せられた感覚になって、23人の悲惨な子供達のうち、今の最悪な気分はどれに近いのだろうと、マイナスのロールモデルを探してしまう類の本なのだ。


23人のうちの1人がオイスター・ボーイと呼ばれた男の子の話(代表作)である。

牡蠣の頭をもって生まれたオイスター・ボーイは、本当は、サムという名前を持っているにも関わらず、「そこの貝みたいなの」*1 と呼ばれ、生臭いなど毛嫌いされ、最後は殺されて両親に生牡蠣として食べられてしまうという、身も蓋もない話である。


奇妙で、風変わりな23人の子供の姿をとっているが、様々なタイプの傷ついたインナーチャイルドのようにも見える。



ネガティブの種の見つけ方


傷ついたインナーチャイルドばかりを見るのは、辛くないの?と言われるのだが、この本は、読み方次第では、ネガティブな自分自身に目を背けずに対峙できるのだと思う。


親からのネグレクトや物理的な虐待や、子供時代に学校で受けたいじめ、社会から爪はじきにされて無下に扱われた経験、それらが複合的に積み上げられて大人になってもまだ癒されていない人もいるかもしれない。

今は大人になってそういった過去の出来事には蓋をして、無かったことにして平気そうな顔で過ごしている人もいるかもしれない。


解決していないものを、さも解決したかのようにするのは、やめて!


そんなメッセージ性を『オイスターボーイの憂鬱な死』から感じる。


読み方によっては、”幸せを求めると、不幸になる”という物語の図式も、一度きりの人生なんだから、誰だって失敗しても幸せを果敢に掴み取りに行ったっていいんだという勇気がもらえるかもしれない。


少なくとも私は、自分の中のネガティブの種を、再確認して、まだ癒されていなかったんだねと、オイスター・ボーイや傷だらけの子供達と対話し、また緩やかに上り始めて行くのに必要な儀式なんだと思う。


心の副交感神経の時間と同じ働き、というと大げさかもしれないけれど。





引用元:*1 河出書房新社 『オイスター・ボーイの憂鬱な死』ティム・バートン / 狩野 綾子,津田留美子

Comentarios


Ya no es posible comentar esta entrada. Contacta al propietario del sitio para obtener más información.

Copyright © 2022 draconia Co., Ltd. All rights reserved.

bottom of page